最近のアート系ブックストアに共通していることがある。それは、ソーシャルなテーマを扱ったビジュアルブックが、BANKSYやポール・デイビスといったアーティストの作品集とともに、普通に棚に並べられている点だ。
ステファン・サグマイスターのデザインによる『World Changing』、Lars Mullerの『Who owns the water? 』、コンテンポラリーアートとエコロジーをつなげる『LAND, ART - A Cultural Ecology Handbook』などなど。ビジュアルワークは視覚によって、複雑な情報をすばやく伝えるのだろう。一ころは取っ付きにくかった社会性の高いテーマとの距離感を埋めるべく、少しずつデザイナーが関わりはじめているのだ。今回見つけた『Crossfields』もまさにそんな本である。
vol.2 テーマは“HOME”
vol.1 テーマは“EGO”あまりに気になる仕上がりだったので、その仕掛け人であるロンドンをベースとするクリエイティブエージェンシーwireのジョン・コーコランにコンタクトをとった『Crossfields』は何を目指しているんだろう?
「僕らが知っているデザイナーは、みんなそれぞれ言いたいことや意見を持っているのに、プラットフォームがなかった。だから僕たちが目指しているのは、言わばビジュアルダイアログのようなものだね。
第2号となる今回は“ホーム”、創刊号は“アクセス”、今準備している次号は“エゴ”と、毎号テーマを設定しているんだけど、僕たちとって基本的なことにフォーカスしていこうと思っている。」

そんな彼らのビジョンは明確だ。“人々の考えや行動を変えていくデザイン”。だが、そこに到るまでに紆余曲折があった。「社会的責任なんて、考えたこともなかったよ。」ジョンは続ける。
「最初のころは僕たちも、わがまま放題やっていた。意識が変わったきっかけは、地方自治体の新しいアイデンティティをつくるっていう、今までとは違うタイプの仕事だった。
まったく噛み合ってないコミュニケーションを再構築し、コストを抑えながらユニバーサルなデザインを実現しなければいけない。そのとき初めて多様なエンドユーザーをよく観察するというアプローチを採用したんだ。
新鮮だったよ。自分たちやクライアントのためでもなく、使う人のためにデザインをしているんだから!とても気分がよくて、本当に仕事にのめりこんでいったね。」
そうして、楽しみながらパブリックな仕事を続けるうちに、デザインのスタイルと革新性、それにクライアントに媚びないという態度まで含めて、その評判は広まっていった。エゴイスティックなクライアントはいつのまにかいなくなって、むしろビジネスもうまく回り始めたと言う。

難民への偏見をなくそうという「Don't believe the type」1) 好きで共感できるクライアントとしか仕事をしない
2) 好きで共感できる人しか採用しない
3) 負債しない、お金を借りない
4) 社会にとってポジティブな影響を与えていると感じるプロジェクトに取り組む
5) wire発のプロジェクトが必ずしも利益のことを考えなくてもいいように、余裕のあるビジネスをする

wireにとって大事で、お金もしっかり生み出せるプロジェクトに情熱的に取り組む。そして、何もしなくても半年まわせるくらいに収入が安定したら、自分たちのプロジェクトに投資する。それを形にしたのが『Crossfields』なんだよ。
最終的にどうなるのかはまだわからないけど、楽しみながらお金を得て、同時に世の中を変えているって実感できるのは、すごくいいことだよ。」
社会的なテーマに取り組むことは、彼らにとって自然なモチベーションであり、優良なクライアントと出会うために欠かせないものである。また、エンドユーザーに対して責任を持つと同時に、デザイナーとしての誇りもそこから生まれてくるのだ。wireの現実的な話には、デザインを楽しむための大切なヒントが溢れている。
(初出:WebDesigning 2007年8月号)

