「クリエイティブな連中は、サイテーの身分で働いている」。20世紀の終わりにそう嘆いたのは、今は亡きティボール・カルマンだった。アンディ・ウォーホルが創刊した「Interview」やベネトンの「COLORS」誌のデザインで知られ、今なお良識あるデザイナーのアイコンとして、大きな影響力をもつ伝説のアートディレクターである。
彼の真意はこうだ。デザイナーは創造性という強力な武器を持ちながらも、ただ企業の営利活動に盲目的に加担している。そうして情報がクローズドなまま、環境破壊や人権侵害などの社会問題に気づかないうちに加担してしまう可能性があるということを、強い言葉で警鐘したのである。
そうして21世紀の幕が開けて、よい変化の兆しが見えてきた。その要因は、CSR=“企業の社会的責任”の機運と、そしてインターネットという双方向メディアの登場だろう。消費者はその商品がどのように出来上がったのかに関心を持つようになり、企業はさまざまな情報を公開してレスポンスしなければならなくなった。もはや何かを隠蔽して営利ばかりを求めるビジネスは成り立たなくなってきたのだ。
こうして以前と比べてはるかに物事がオープンになった今、今度はデザイナーの方にバトンが渡っているように感じる。どんなマテリアルを選び、どんなメディアで発信していくのか、何かのデザインを方向付けるのはデザイナーの裁量だからだ。そう、いよいよ気づき始めたクリエティブな連中が、表舞台に躍り出る時が来たのである。
Openという名のデザインスタジオ
そんなオープンな時代にあって、その名も“Open”というデザインスタジオがニューヨークに存在する。“Design for People”を掲げ、正統なタイポグラフィと遊び心あふれるアイデアで、さまざまなブランディングを成功させてきたアートディレクター集団だ。ファウンダーのスコット・ストーウェルは、奇しくもティボール・カルマンの元でキャリアをスタートさせた。
「ティボールは、“物事がこうあるべき”という先入観を持たない人物だった。実際、使い古された表現や、どこかで見たことのあるようなデザインが嫌いだったんだよ。みんなが革新的ではっきりと伝わるものをつくろうと情熱に溢れていた。キャリアのはじめに、そんなところに居られたのは本当に幸運だった。今は同じような空気をOPENでもつくろうとしているよ。」


例えば、公開されている様々なデータをわかりやすくビジュアライズするTRANSPARENCY(=透明性)というシリーズがある。そこでは、スーダンでのダルフール内戦から世界の都市の人口に対する公共トイレの数まで、グラフィックに落とし込むことで社会問題が一目で理解できるのだ。そのようにデザインを巧みに取り入れているのも、GOOD MAGAZINEの大きな魅力のひとつとなっている。
自分たちの仕事は"デザインソリューション"
彼らは自分たちの仕事を“デザインソリューション”と呼ぶ。「私たちは物事をよく分析する。何よりも、問題がどこにあるのか充分に理解できるように、解決策を見つけ出すことが大好きなんだよ。」
今スコットがGOOD MAGAZINEのコミュニティサイトで取り組んでいるのが、”Good or Not”というプロジェクトだ。ユーザが身の回りのものを撮影して、”GOOD”なデザインか”BAD”なデザインか、Flickrで共有しようというもの。その目的は、デザインした側の意図だけでなく、使う側からのフィードバックの機会を開くことにある。スコットは続けた。
「確かにデザインは物事をよくすることができる。でもそのためには生活者である私たちが、よいデザインとは何か、知っておかないといけないんだ。」
(初出:WebDesigning 2007年10月号)

